本連載では、中堅製造業の採用課題に対して「求人票では伝わらない自社の魅力をどう届けるか」をテーマに解説しています。
前編では、採用がうまくいかない背景にある「条件でしか比較されない採用構造」と、その構造を変える手段としての採用オウンドメディアの考え方を整理しました。
しかし、実務の現場では次のような壁に直面するケースが少なくありません。
「何を書けばいいのか分からない」
「続けられる気がしない」
「運用のイメージが持てない」
つまり、“必要性は理解できたが、実装が見えない”という段階です。そこで後編では、採用オウンドメディアを実際に機能させるために、誰に・何を・どう続けるのかを具体的に整理します。
前編はこちら▶︎「求人票では伝わらない自社の魅力」を資産に変える。中堅製造業が採用オウンドメディアを持つべき理由
採用オウンドメディアがうまく機能しない原因の多くは、「何を書くか」ではありません。「誰に届けるか」が曖昧なまま始まっていることにあります。
この前提がズレている限り、どれだけ記事を増やしても成果にはつながりません。まずは最初のステップとして、誰に届けるのかを明確にする必要があります。ここでは、誰に届けるかを決めないと、コンテンツが書けなくなる理由について説明していきます。
製造業の採用では、「技術職」「技能職」「製造オペレーター」「品質管理」など、職種ごとに求職者の関心が大きく異なります。それにも関わらず、ペルソナが定まらないままコンテンツを作り始めると、何をどこまで書くべきか判断できなくなります。
たとえば、
「製造業に興味がある人」という設定は、一見すると自然ですが、実際には非常に幅が広い状態です。製造業といっても、志向や関心によって知りたい情報は大きく異なります。
このように対象が広い状態で記事を企画すると、
と、方向性が定まらず、企画が止まりやすくなります。結果として、会社紹介や理念紹介など、どの企業にも当てはまる無難な内容に寄ってしまうのです。
製造業では、求職者の立場によって知りたい情報が大きく変わります。代表例を整理すると、以下の通りです。
|
ペルソナ |
知りたい情報 |
|
地元で長く働きたい30代転職者 |
夜勤・交替勤務の有無、残業時間、転勤、安定性 |
|
ものづくりに憧れる若年層 |
研修、教育体制、先輩の成長ストーリー |
|
同業他社からの転職者 |
設備、技術領域、担当工程、裁量 |
|
未経験から挑戦したい人 |
入社後の教育、資格取得支援、現場のサポート |
同じ「製造業志望」でも、ここまで関心は異なります。そのため、誰に向けた情報なのかを明確にすることが欠かせません。
製造業の採用では、「間口を広げたい」という思いから、幅広い層に向けた情報発信を目指しがちです。しかし実際には、対象を広げるほど内容は抽象的になります。
こうして、誰にも強く訴求できないコンテンツになってしまいます。
採用オウンドメディアは、多くの人に届くことより、合う人に深く刺さることが重要です。その第一歩が、「どのような人材に来てほしいのか」を具体化することです。
誰に届けるのかが明確になったら、次に考えるべきは「何を書くか」です。採用オウンドメディアでは、企業が発信したい情報から考え始めると、求職者との間にズレが生まれやすくなります。
多くの企業は採用コンテンツで、理念・パーパス・事業の将来性などを中心に発信しがちです。もちろん重要な要素ですが、求職者が最初に知りたいのはもっと現実的な情報です。
株式会社ニュートラルワークスの採用サイトに関する調査によると、採用サイトで「残念に感じるポイント」は以下の通りでした。(参考:株式会社ニュートラルワークス「採用サイトに関するアンケート調査」)
この結果から分かるのは、理念やビジョンよりも「働くリアル」です。特に製造業では仕事内容のイメージが持ちにくいため、このギャップはさらに大きくなりやすい傾向があります。
たとえば、製造業の求職者が知りたいのは次のような情報です。
つまり、採用コンテンツで優先すべきなのは「魅力を語ること」ではなく、「働くリアルを解像度高く伝えること」だといえるでしょう。
求職者が求めているのは、良い面だけを切り取った情報ではありません。むしろ、次のようなリアルな情報に信頼を感じます。
こうした透明性のある発信は、応募前の不安を減らし、「理解したうえで応募する状態」を作ります。採用オウンドメディアのテーマは、企業が伝えたいことではなく、求職者が入社判断に必要とする情報から決めることが重要です。
採用オウンドメディアは、立ち上げよりも「続けること」の方が難しい施策です。更新が止まると信頼低下にもつながるため、最初から無理のない運用設計を行うことが欠かせません。
ここでは、継続できる体制づくりの考え方を整理します。
採用オウンドメディアは「最新の会社の姿」を伝える場です。そのため更新が止まっている状態は、求職者に不安を与える要因になりやすくなります。
最終更新が長期間前で止まっていると、「採用に力を入れていないのでは」「社内の状況が変わったのでは」といった印象につながる可能性があります。特に安定性を重視する求職者が多い製造業では、この影響は小さくありません。
たとえば月2本でも、1年間継続できれば24本のコンテンツが蓄積されます。継続によって情報資産が増え、検索流入や志望度向上に少しずつ効果が現れます。
更新頻度は、理想ではなく「継続可能性」で考えることが重要です。まずは無理のない更新計画を立て、長期的に続けられるペースを確立しましょう。
継続を阻む最大の要因は、コンテンツ制作の負担です。そこで有効なのが、社員インタビューを軸にした企画設計です。インタビュー形式には次のようなメリットがあります。
製造業では職種や工程が多いため、登場人物を変えるだけでも多様なコンテンツを生み出せます。特別な記事を作ろうとするより、現場のリアルを継続的に伝える方が、結果として求職者の信頼にもつながります。
採用オウンドメディアは、必ずしもすべてを自社で完結させる必要はありません。noteやNotionといった手軽に使えるツールを活用する方法もあります。
また、社内リソースが限られる場合は、企画設計や制作を外部パートナーと分担する方法も有効です。実際、多くの企業が「企画設計」「編集」「制作」などの一部を外部と協働しながら運用しています。
社内だけで抱え込もうとすると更新が止まりやすくなるため、継続を前提にした体制づくりという観点では、外部の専門知見を取り入れることは現実的かつ有効な選択肢です。採用オウンドメディアは短距離走ではなく長距離走です。継続できる体制づくりこそが成果を左右します。
採用オウンドメディアは、PV数などの分かりやすい数字に目が向きがちです。しかし、本来の目的は応募数の増加やミスマッチの減少など、採用成果につなげることにあります。
ここでは、製造業の採用広報に適した指標の考え方を整理します。
オウンドメディア運用では、最初に「PVがどれくらい伸びたか」を確認したくなります。しかし、採用領域ではPVはあくまで参考指標に過ぎません。
製造業では、次のような状況も珍しくありません。
重要なのは「どれだけ読まれたか」ではなく、誰に読まれ、採用行動につながったかです。PVは入口の参考指標として活用しつつ、採用成果と切り分けて考える必要があります。
採用オウンドメディアでは、採用成果に直結する指標で効果を測ることが重要です。特に製造業では、仕事内容や現場環境の理解不足によるミスマッチが起こりやすく、応募から入社後までの変化を見ていく視点が欠かせません。
採用の効果は、次の3つの指標でシンプルに捉えられます。
|
指標 |
見るべきポイント |
|
採用CVR(応募から内定・入社につながる割合) |
応募率・書類通過率・内定承諾率が改善しているか |
|
面接時の理解度 |
仕事内容や企業理解が深まった状態で応募しているか |
|
早期離職率 |
入社後のミスマッチが減少しているか |
記事を読んだ候補者が「理解したうえで応募し、納得して入社し、定着する」状態をつくれているか。この流れを確認することが、採用オウンドメディアの成果測定につながります。
たとえば面接時に、
といった内容を確認することで、求職者が実際に求めている情報が見えてきます。
また、「社員インタビューが決め手になった」「仕事内容が具体的で安心できた」といった声が多ければ、同様のテーマを強化する判断材料にもなります。反対に、応募後のギャップや質問が多い項目は、情報不足のサインとして改善につなげることができます。
採用オウンドメディアは、発信して終わりではなく、応募者の反応をもとに改善を重ねることで精度が高まっていく施策です。継続的に振り返りを行いながら、求職者理解を深めていくことが重要になります。
ここまで、設計・運用・成果指標の考え方を整理してきました。では次に、実際に採用オウンドメディアを活用している企業の事例を見ていきましょう。
採用オウンドメディアは「何を書けばよいのか」に悩みやすい施策です。しかし、すでに多くの企業が試行錯誤を重ねながら継続的な運用で成果につなげています。ここでは、その代表的な事例を4つ紹介します。
メルカリの採用オウンドメディア「mercan」は、特定の広報・人事だけでなく、全社員が発信に関われる仕組みを持っています。技術、組織、働き方、イベントなど、現場のリアルを社員自身が発信している点も大きな特徴です。
また、PV数の最大化を主目的にせず、入社前の理解促進を重視した運用を行っています。応募数の増加だけでなく、入社後のミスマッチ防止や社内エンゲージメント向上までを採用広報の役割として捉えている点が印象的です。
その結果、企業文化や働く人の価値観を事前に深く理解できるようになり、「入社後のギャップを減らす採用」を実現しています。
「CyberAgent Way」は、国内でも早期から継続的に運用されてきた、採用オウンドメディアの先駆け的存在です。
コンテンツの中心は社員インタビューで、事業・職種・年次の異なる社員の声を幅広く掲載しています。仕事内容に加え、挑戦できる機会や成長環境、キャリアの広がりまで具体的に伝えている点が特徴です。
これにより求職者は、入社後のキャリアや働き方を具体的にイメージでき、応募前の不安を減らしながら志望度を高められる設計になっています。
Sansanの採用オウンドメディア「mimi」は、社員インタビューを中心にカルチャーを丁寧に伝える構成が特徴です。華やかな演出よりも、言葉の誠実さやリアルな体験談を重視したトーンで統一されています。
仕事のやりがいだけでなく、試行錯誤や葛藤、チームでの働き方なども率直に語られており、企業文化を等身大の言葉で伝える設計です。
こうした透明性の高い発信によって求職者は、企業の雰囲気や価値観を具体的にイメージでき、応募前の不安を減らしながら信頼感を高められるようになっています。
ソニーの「Discover Sony」は、大手メーカーの仕事や人を多角的に伝えるメディアとして運用されています。研究開発・技術・デザイン・エンタテインメントなど、幅広い領域の社員ストーリーを通じて、「働く場所としてのソニー」を具体的に描いている点が特徴です。
さらに、学生インターンが制作に関わる仕組みを取り入れていることも大きなポイントです。求職者に近い視点を反映することで、学生が知りたい情報や疑問に寄り添ったコンテンツ設計が実現されています。
これにより、求職者は企業の規模や事業内容だけでなく、実際の働き方やキャリアの広がりをよりリアルにイメージできるようになっています。
採用オウンドメディアは、公開した瞬間に成果が出る施策ではありません。継続的に改善しながら育てていくことで、応募の質向上やミスマッチ防止につながる「採用資産」へと成長していきます。
特に製造業では、仕事内容や働き方の理解不足による辞退・早期離職が課題になりやすく、長期的な情報発信の価値は非常に高いといえます。今回紹介した事例や運用の考え方を参考に、自社に合った形で取り組みを進めてみてください。
本記事を通して採用オウンドメディアの重要性は理解できたものの、実際には
このように感じている方も多いのではないでしょうか。
株式会社コンテナでは、製造業を中心に採用支援を行っており、採用オウンドメディアの立ち上げから運用改善まで無料でご相談いただける個別相談を実施しています。本記事の内容の整理や、自社に合った進め方の検討に、ぜひご活用ください。
あわせて、採用オウンドメディアの進め方を体系的に整理したホワイトペーパーもご用意しています。記事では触れきれなかった設計の考え方や具体的な進め方をまとめていますので、より実務に落とし込みたい方はぜひご活用ください。
また、本シリーズは前編からお読みいただくことで理解がより深まります。まだご覧になっていない方は、前編記事もあわせてご覧ください。
「求人票では伝わらない自社の魅力」を資産に変える。中堅製造業が採用オウンドメディアを持つべき理由